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法話 宮沢賢治著『蜘蛛となめくじと狸』と、人生のゴール

法話 宮沢賢治著『蜘蛛となめくじと狸』と、人生のゴール

 

 

今日はですね、最近読みました小説で、宮沢賢治のとても面白いものがあったので、ご紹介したいと思います。

 

宮沢賢治のお父さんは、大変熱心な浄土真宗のご門徒だったんですね。賢治自身は、小さい時に浄土真宗の法話をたくさん聞いていたんですが、後に南無妙法蓮華経の方に心をうつされたんです。だから小説にはですね、すごく仏教の精神が息づいています。

 

そして私が面白いと思ったのは、『蜘蛛とナメクジと狸』という物語で、これを紹介したいと思うんですね。すごく話の書き方とかがテンポよくて、しかも深いというね。改めて宮沢賢治の魅力に触れたわけなんですが、この物語はこんな感じで始まるんですね。

 

「蜘蛛と銀色のナメクジとそれから顔を洗ったことのないタヌキとは、みんな立派な選手でした。けれども一体何の選手だったのか、私はよく知りません。ヤマネコが申しましたが、三人はそれはそれは実に本気の競争をしていたそうなのです」と、こう始まる。

 

いったい何の競争をしていたのか? この三人は一体なんの競争をしていたんでしょうかというのが、物語からの問いかけなんですね。そして蜘蛛・ナメクジ・狸の生涯が、それぞれ描かれていくわけなんですね。それぞれこの三人はですね、お互い罵り合っています。憎み合っていて、お互いに嫌いなんですね。

 

例えば一つ目は蜘蛛の一生。蜘蛛はどんなふうに暮らしていたかと言いますと、クモの巣を作りそしてそこにかかるものを食べるわけです。でもずっと獲物が無くて、次に何もかからなかったら死んでしまうなあというところで、蚊がかかったんですね。かかったと思ったらすぐに近づいて蚊に食らいつくわけです。

 

蚊は「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」とね、哀れな声で鳴きますが、蜘蛛はものも言わずに頭から羽から足までみんな食ってしまいました。残酷だなぁと思いますね。そしてそうしているうちに、だんだんと体が太ってきて、大きな網を張れるようになり、結婚もして、幸せになったかのように見えました。ですが結局ですね、病気にかかってしまいます。そのまま最後は、悔しい思いをして死んでいく、と。

 

次にナメクジ。ナメクジはですね、やはり獲物を捕るんですが、そのために甘い言葉を使います。ナメクジは親切だという評判を作ってね、獲物を呼び寄せるんですね。

 

「親切なナメクジさん、水を飲ませてください」といって入ってくるカタツムリなんかを、殺して食べてしまうわけですね。しかも最初は、親切そうに「どうぞどうぞ」と水を飲ませ、その後で楽しくそうに「相撲でもしましょう」といって誘ったりするんですね。

 

「さあ相撲を取りましょうか」といってね、カタツムリと相撲を取ったりするんですね。「私はどうも弱いのですから、強く投げないでください」とカタツムリがいうのに、容赦なくひどく投げつけるんです。「もう疲れてダメです」といってもやめずに、ついにはこのカタツムリを殺し、ペロリと食べてしまう。そういうふうにして暮らしているわけなんです。

 

そういったナメクジでも、最後はカエルに騙されてですね、塩を撒かれた中で相撲をとり、塩で溶かされてしまう。そういう一生を送るわけです。

 

最後のタヌキさんはね、宗教を装ってるんですね。「山猫大明神様」というものを祀っていて、今にも死にそうな人を呼び寄せるんです。そして「往生させてあげるよ」と言うんですね。弱っている人がやってきましたら、「ナマネコ、ナマネコ」ととなえます。

 

これ、ナムアミダブツのことですね。それを猫に変えている。念仏ならぬ「ねんネコ」です。ねんネコを唱えてですね、その弱った人を捕まえて食ってしまいます。「私に食べられたら往生できるよ」と言って、だますわけです。

 

でもそうやって生きてきたタヌキも、悪いことをし続けて悪いことでおなかがいっぱいになってね、最後はお腹が燃えるように熱くなって「苦しいな、苦しいなあ」と言いながら死んでいくわけです。

 

最後にこのタヌキが「怖い怖い、俺は地獄行きのマラソンをやったのだ。切ない」と言いながら、焦げて死んでしまいました、とあるわけです。

 

物語の終わりに「なるほど、そうしてみると三人とも地獄行きのマラソン競争をしていたのです」と書いてあるんですね。

 

これを読んで、この蜘蛛・なめくじ・タヌキのことはね、私どものことだなぁとね思いましたね。

 

生きるのに必死で、獲物を捕らえて食べ、いくら「ごめんなさい」と言われても、自分の命を守るためには相手を食べてしまう。そして「なんとか勝ちたい、勝ちたい」と思いながら、この人生というマラソン競争をしているのですが、ゴールに待っているのは地獄なんですね。

 

この物語を通してですね、「そのマラソンをしていていいのか? そのマラソンしていてどこに行くのか?」と呼びかけてくださっている阿弥陀様の声を、私は感じるんですね。

 

「お前はどんなマラソンしてるのか。この人生でどういう思いで走っているのか。何を目指しとるんや」と言ってくださっているこの阿弥陀さまの呼びかけを、聞かせていただきたいなぁと思いました。

 

(西本願寺ブラジル別院 2018.5) 
 
 
※この物語は青空文庫にて無料で読めます。
『蜘蛛となめくじと狸』宮沢賢治
https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/4602_11979.html

 

 

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略歴


久保光雲(くぼ・こううん)


広島出身。画家、僧侶(浄土真宗本願寺派)。京都市立芸術大学(陶芸科)を卒業。陶器製作に加え画家としての活動も始め、関西・仙台・アメリカにて絵画展を開催。龍谷大学大学院博士後期課程(真宗学)単位取得満期退学。2012年からカリフォルニア州の米国仏教大学院に留学。サンフランシスコやバークレーの寺院で法話を行う。2015年7月よりブラジルにて、開教使(海外布教僧侶)として赴任中。

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