第六章 小結
本章においては、ビハーラや真宗カウンセリングなど革新的活動を展開した西光義敞を取り上げ、伊藤の教えがどのような発展を見せたのかを検討した。第一節において、その生涯を調べ、西光の活動内容を概観した。また二十代半ばで得た宗教体験を検討し、これが西光の活動の原点となっていることを確認した。カール・ロジャーズの心理学と出会った西光は真宗カウンセリングを提唱したが、その根底を支える価値観は、西光が得た宗教体験すなわち獲信が出発点となっている。
過剰なストレスが蔓延する現代にあって、カウンセリングを通して阿弥陀仏の本願が広まっていく可能性を示した真宗カウンセリングは、真宗教界に新たな道筋を提示しているといえよう。
その特徴としては、真宗カウンセリングを表した模式図に示されたように〈34〉、「人格の内面において自己と仏との両次元、有限・相対の次元と無限・絶対の次元をあわせもっている〈35〉」真宗者、つまり他力信心を得た人の存在が前提となる。西光は真宗カウンセラーの理想の条件として、「具体的に言えば、うけがたい人身を受け、弥陀の本願に遇った喜びのある者である。〈36〉」と記している。そして、
すなわち「本願力廻向の信心」「如来よりたまはりたる信心」として如来の大悲心が躍動する。この躍動する大悲心が、ともに同じ時代苦、社会苦を背景に苦悩する有情としての同朋感覚にとぎすまされ、対人援助的配慮に向かう姿が、すなわち真宗カウンセリングの基本姿勢となる。〈37〉
と説明している。他力信心に生かされた人が、同時代に生きて苦悩する同朋に対して援助的配慮を行うというのが、真宗カウンセリングなのである。
そしてビハーラ活動についても、「ビハーラ実践活動にたずさわる者にとって、真宗カウンセリングの理解と体得は欠かせない〈38〉」と言及していることから、西光がいかに他力信心を重要視していたかが窺える。
他に、理想的な法座形式の提唱〈39〉も、真宗教界の布教現場において、実践的な道標となり得るものではなかろうか。西光の存在は、伊藤の布教の結果が、社会的に意義の高い活動にまでつながった好例といえよう。
第六章の参考文献
1 増井悟朗・西光義敞 『華と光』 六〇~七〇、七七頁。
2 増井悟朗・西光義敞 『華と光』七〇~七二頁。
3 増井悟朗・西光義敞 『華と光』 八三~八四頁。
4 増井悟朗・西光義敞 『華と光』 八四~八五頁。
5 増井悟朗・西光義敞 『華と光』 八九頁。
6 増井悟朗・西光義敞 『華と光』 八九頁。
7 増井悟朗・西光義敞 『華と光』 八九~九〇頁。
8 増井悟朗・西光義敞 『華と光』 九〇~九一頁。
9 増井悟朗・西光義敞 『華と光』 九一頁。
10 増井悟朗・西光義敞 『華と光』 九二頁。
11 西光義敞 『わが信心わが仏道』 二七~二八頁。
12 西光義敞 『育ち合う人間関係』 二五頁。
13 西光義敞 『育ち合う人間関係』 二五~二六頁。
14 西光義敞 『育ち合う人間関係』 二六~二七頁。
15 西光義敞 『育ち合う人間関係』 二七~二八頁。
16 西光義敞 『暮らしの中のカウンセリング』 五六頁。
17 西光義敞 『育ち合う人間関係』 三五~八〇頁。
18 西光義敞 『育ち合う人間関係』 一二五頁。
19 西光義敞 『育ち合う人間関係』 一八二~一八三頁。
20 西光義敞 『育ち合う人間関係』 一八六頁。
21 西光義敞 『育ち合う人間関係』 一八八頁。
22 西光義敞 『育ち合う人間関係』 一八一頁。
23 金山玄樹 「Dharma-based, Person-centered Approachの一試論」 八三頁。
24 西光義敞 『育ち合う人間関係』 二七九~二八三頁。
25 中村元 『広説佛教語大辞典』上、六一一頁。
26 西光義敞 『育ち合う人間関係』 二七九~二八〇頁。
27 華光会 『華光』五二―一号 二頁。
28 西光義敞 『育ち合う人間関係』 二八一頁。
29 西光義敞 『育ち合う人間関係』 二八一~二八二頁。
30 西光義敞 『育ち合う人間関係』 二八二頁。
31 西光義敞 『育ち合う人間関係』 二八二~二八三頁。
32 西光義敞 『育ち合う人間関係』 二八六~二八八頁。
33 西光義敞 『育ち合う人間関係』 三、八一~九三、一五一、二〇〇~二〇三頁。
34 西光義敞 『育ち合う人間関係』 一八四~一八五頁。
35 西光義敞 『育ち合う人間関係』 一八六頁。
36 西光義敞 『育ち合う人間関係』 二二五頁。
37 西光義敞 『育ち合う人間関係』 二〇一頁。
38 西光義敞 『育ち合う人間関係』 一九七頁。
39 西光義敞 『育ち合う人間関係』 二六七~二九三頁。